なんやこれ

ポケモン以外のことを書きます。

逆転裁判123 成歩堂セレクション プレイ感想文

先日、と言っても何カ月も前だが、逆転裁判123成歩堂セレクションをクリアした。かなり満足度が高かったのでプレイした感想を書いていく。

プレイすることになった経緯

弁護士芸人のこたけ正義感氏が逆転裁判のゲーム実況を投稿している。

www.youtube.comインターネット黎明期に1-1の極悪違法フラッシュゲームをプレイしたことがあったため、1-1の動画を試しに見てみたところかなり面白かったため、それ以降の動画も見ることにした。ただ、せっかくなので自分でゲームプレイしてから見ることにしようと思い、プレイすることにした。
なお、上記の実況動画は現在2が完結するところまで進んでいる。シンプルにゲーム実況動画として面白く、オススメ。

※これ以降、ほぼ全てがネタバレなので、未プレイの方は注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1-1:はじめての逆転

チュートリアルながら、重要人物である矢張が登場。そしてまだまだ成歩堂一人では頼りなく、千尋がいないとままならないことが分かる。そんな中で不穏な空気を残していく引きが印象的。

好きなシーン/セリフ

うるせえんだよ!細かいことをぐちぐちと!

亜内検事。今、ほんとうは何時ですか?

 

1-2:逆転姉妹

1-1で頼れる上司であることが分かった千尋が想定の何倍も早く離脱したのにはさすがに驚いた。
真犯人である小中は1-2で相手するにはあまりにも強大な相手であり、123通じてプレイしてから振り返っても最も倒すことが難しそうに見えるのだが、そこは師匠千尋の力を借りて無事倒すことができた。
一つ気になる点として、とどめの刺し方が脅迫による自供なので、法廷における勝ち方としてはいかがなものかと思える*1。しかしあくまでフィクションとして、意趣返し(誤用)*2による勧善懲悪もまた逆転裁判の魅力であるので、それを最初に味わえるシーンでもある。特に打倒小中は舞子が失踪して以降、千尋が生涯をかけて目標としてきたものであり、志半ばで命を失ったものの自らの手で達成できたというのは千尋の無念を果たせた場面でもあった。どのみち司法も政治も小中に牛耳られているということになっているので、法廷という場で全うに戦うよりは、むしろ逃げ場のないフィールドに追い込んで脅迫する方が理にかなっているのかもしれない。
真宵と出会う章でもあるわけだが、終盤の展開を見て「これ毎回千尋霊媒させれば万事解決なのでは?」と思えてしまうところ、そういった態度がいつの間にか真宵を追い込んでしまっていたのだということを、成歩堂もプレイヤーも1-4で思い知ることになるのであった。

好きなシーン/セリフ

おっと。そろそろ退散するか!明日、また遊ぼうぜ梅世さん!

実はね……。あなたは、もう勝っているの。

 

1-3:逆転のトノサマン

逆転裁判の各章をランク付けするのは難しい。特に後半の話になるにつれて、伏線を回収することによる面白さがあるため、純粋なその話のみの評価として比較するべきか、伏線回収込みでの面白さを比較するべきかということを考えないといけないからだ。という前置きをした上で、前者の観点で評価するのであれば、自分はこの1-3の評価が最も高い。
容疑者、被害者、アリバイ、殺人現場、動機。法廷パートで次から次へと前提が覆されていく様は爽快で、逆転裁判というタイトルを最も体現した章であったと感じた。
真宵が助手となって動く最初の章でもある。捜査と称して終始やりたい放題するモラルの終わっているコンビにツッコミを入れるのもこのゲームの醍醐味である。真宵が毎度毎度ろくでもない目に遭うので、真宵と一緒に操作できる章は何気に15章中5章しかない。
このゲームにおいては、状況を二転三転させるために、キャラが隠し事をしたり奇行に走ったりというシーンがよく見られる。そんな中で1-3では、オバチャンと九太のキャラ付けによって比較的自然な形でどんでん返しを実現できている。名物キャラと化したオバチャンは初日の捜査パートで強烈な印象を残し、法廷パートでも全員を翻弄する勢いで暴れている。そんなオバチャンを追い詰め、口を割らせることが、初日の絶望的な状況を打破する方法であった。翌日の法廷での逆転のポイントは九太の証言であり、好きなヒーローの勝利を妄信する気持ちが根底にあるという子供らしさが自然であった。子供じみた考えに見えるかもしれないが、少し読み変えると「好きな芸能人が問題を起こした際にそれを認められない」という話になり、こうなると大人でも考え込んでしまうであろう。この葛藤に苦しんでいたのがオバチャンであり、終盤で全てを認めて受け入れたオバチャンの清々しさは好きなシーンの1つである。
1-2で登場した御剣は1-2では最後まで抵抗してきたが、1-3の終盤では成歩堂とともに真犯人を追い詰める姿を見せた。2-4の最後に語られる、弁護士と検事がお互い協力して真実を探るのだということに、徐々に気付き始めたことがうかがえる。御剣の立場や考え方も逆転し始めた章であった。

好きなシーン/セリフ

"トノサマンは勝たなかった"

かわいそうにねえ……イブクロちゃん。
やっちゃいけないコト、……やっちゃったんだネェ。

荷星三郎は、無実だった。だから、それが証明された。……あたりまえのことだ。

 

1-4:逆転、そしてサヨナラ

1を締めくくる話。2から3にかけて伏線が回収されていく様も爽快であったが、1-4は1のみで完結する伏線回収であり、また違った爽快感がある。
1-2で登場したDL6号事件は千尋と小中の因縁を語るにしては風呂敷を広げすぎではないかと感じたが、そこを見事に回収してきた。綾里家だけでなく御剣までもが古くから関わりがあったことが明かされる。一方で、成歩堂と御剣、矢張の過去の出来事も語られる。これらの過去のネガティブな出来事によって登場人物どうしが引き寄せられ、今につながっていることが分かる。特にDL6号事件は遺恨を残し、今回のひょうたん湖の事件につながってしまった。主な遺恨は灰根→生倉であったが、御剣→舞子の遺恨も残っている。後者については1-4を通じてある程度解消したかに見えたが、3-5でのあやめとの会話を見るにそう簡単な話ではなかったようだ。
御剣の代わりに登場した検事狩魔豪は、強大な敵役として君臨した。それまでの敵キャラであった御剣の師であることから、より強いキャラとして登場したものかと思われたが、単にそれだけにとどまらずひょうたん湖の事件、そしてDL6号事件にまで深く関わっていたことが明かされ、全てのキャラが十分に活かされていると感じた。検事としても強力であり、123を通じて最も厄介な敵であったと言える。
この章で最も有名かつ衝撃的なシーンである、「DL6号事件を忘れるな」についても、完全に油断しておりまんまと鳥肌が立ってしまった。ただ、動線の関係で、まだ余韻が残っている中で移動すると、真顔矢張withトノサマンのテーマがカットインしてくるのには笑ってしまった。
この章における逆転、すなわち真相が明かされたのは、まずはもちろんひょうたん湖の事件である。そしてそれだけではなく、DL6号事件についても真相が明かされる。御剣は直接的にはひょうたん湖の事件の被告人であり、その疑いは晴れたわけだが、DL6号事件についても無実であることが明かされた。こちらの方がむしろ、御剣自身が15年にわたって自責の念に苛まれてきた原因であり、弁護士ではなく検事になった理由でもあるわけなので、御剣が救われた瞬間である。DL6号事件については御剣だけでなく、綾里舞子についても真相が明かされた。舞子は霊媒による立証に失敗したとして立場を追われたわけであるが、それは豪の陰謀*3であり、舞子自身に失態はなかったことが明かされる。舞子自身がこの場にいれば一番救われたのであろうが、少なくとも千尋や真宵にとっては、母は間違っていなかったのだということが確認できたので、少なからず報われたと言えるだろう。
それまで霊媒によって成歩堂をサポートしてきた真宵であるが、1-4では千尋霊媒することはなかった*4。追い詰められて千尋に頼る成歩堂にとって、真宵は千尋を降ろすための存在になりかねなかったが、真宵もそれを感じ取り自身の無力さを感じていた。プレイヤーからしても、絶体絶命の状況になると「そろそろ千尋さん来るんじゃない?」と思いがちであろうから、一緒になって真宵を追い詰めてしまっていた気分になってしまう。そんな真宵が、裁判官に食ってかかったり、豪から証拠品を奪い取ったりと、霊媒に頼らず逆転のきっかけを作ってくれた。特に弾丸については、最後の最後にとどめを刺す証拠品となり、タイトル通りの逆転サヨナラホームランを決めたのは真宵であるとも言える。
そんな真宵は事件が解決した後、里に戻っていってしまう。タイトルにあるサヨナラは、タイトルスチルを見るに御剣との別れを表しているのかと思えるが、実際には真宵との別れで物語を終えるのであった。
総評して、1という作品の単独での完成度を感じることができ、その締めくくりとして見事な役割を果たしている章だったと言える。

好きなシーン/セリフ

やれやれ。何かと言えば証拠、証拠ってうるさいな……

ザコに用はないんだよ。

これから、証明しなければならないからね。決まってるだろ。御剣怜侍の"無実"だよ。

 

1-5:蘇る逆転

とにかくボリュームのある追加エピソード。成歩堂、御剣、イトノコ以外の登場人物は一新されているが、1-2と1-4のオマージュである。対照的な姉妹*5、被告人となった検事、終わりが近い過去の事件、その事件の犯人ではないかという思いをずっと引きずる人物、真犯人として立ちふさがる大物。元々は1-5の存在を意識せずに1-2,1-4は作られたはずなのに、後付けで見事にオマージュされている。
検事局と警察局で同時に同一人物が殺されたというところから話が始まるが、当然そんなことが実現できるわけもないので、この問題は話の前半で片が付く。とはいえそれは結局被告人に不利に働き、SL9号事件も含めて全てを解決することが求められる。
事件についてはいくつか苦しい部分もある。証拠保管室回りは色々とガバガバであり、特に罪門が指紋ロックの仕組みを知らなさすぎるのが気になる。厳徒は罪門弟を殺しまでしたのも理解に苦しむ。ただ逆に、完璧に見える厳徒が初歩的なミスをいくつも犯しているのは、誰だってやる方は初心者だという本人のセリフも相まって、好きな点である。
この章のポイントの1つは証拠法*6である。法廷初日で出てきた際には、なんか急にそれらしい、まどろっこしいこと言い出したな、と思ったものだが、真犯人の最後の足掻きに使われ、と思いきや逆に成歩堂がとどめを刺す際にも使われた。およそ合法的とは思えない方法で入手した布切れは、茜が犯人であることを示すかのように見える絶望的な証拠品であったが、真犯人から致命的な証言を引き出す逆転のためのキーアイテムとなったのは、まさにこの証拠品が蘇ったと言えるだろう。
この章を通じて蘇ったのは、一度は"死んだ"SL9号事件。蘇った逆転とは、SL9号事件の歪められた事実を暴き、真実を明らかにすること。これにより宝月姉妹は過去の呪縛から解放されて救われ、かつての捜査官たちもある種報われた。彼らはみな蘇った。そんな中で必ずしも救われたわけではないのが御剣である。
何気ないシーンで好きなのが、序盤に御剣に弁護士バッチを突き付けた際の「弁護士に憧れていた時期もあったが、進むべき道が目の前に伸びている以上、今更振り返るわけにもいかない」というセリフである。1-5のラストで、「何故過ちを償わなければならないのか?それはきっと、その先にまだ道が続いているから。過去を断ち切って、前を見て歩くため。」というセリフがある。これは宝月姉妹に向けられたものなのだが、御剣に向けたものであるようにも思われた。1-5を通じて御剣が検事や警察関係者からそれなりに虐げられているシーンが描かれる。特に1-4の事件以降はそういう目に遭うことが多かったことが描写されている。そして何より、SL9号事件が掘り起こされたことで、自身が直接意図していなかったとはいえ、不正な証拠による立証に関与し死刑囚まで出してしまったことを知る。1-4が終わった時点では一見するとハッピーエンドに見えたので、その後の2で御剣が失踪したことはプレイヤーからすれば疑問が残る。最初から追加エピソードを前提にしていたのか、不自然につながってしまった話を補うために1-5が作られたのかは分からないが、いずれにせよ不自然な失踪の背景を描くストーリーとしてよい補完になっている。御剣としては自責の念に駆られる日々を過ごしたのだろうが、過去を断ち切って、進むべき道へとまた歩き出していかなければならない。1-5は、検事・御剣怜侍が死から蘇る物語のプロローグなのである。

好きなシーン/セリフ

……ところで、茜ちゃん。きみの持っている携帯電話の着信メロディ……知ってるよ。

……みんなして、ボクのジャマをしてくれちゃってさァ。
ホントに……優秀なヤツらだよ。ニクらしいぐらいにねェ……

 

2-1:失われた逆転

チュートリアルのために記憶を消される成歩堂。2からの要素の1つに人物突き付けがあるが、丁寧に導入をしてくれる。
チュートリアルらしく犯人は分かりやすい悪人であったが、毎回1話の被害者は理不尽に殺されていていたたまれない。
携帯の着信音がトノサマンのテーマだったのは、何だかんだ真宵に付き合いのいい成歩堂の様子が想像できて微笑ましい。

好きなシーン/セリフ

なんだ、この感じ……
気がついたら思わず叫んでいた!……"意義あり"って……

今朝は、後頭部に一発、どうもありがとう。

 

2-2:再会、そして逆転

これまで描かれることのなかった綾里家を取り巻く環境の話。それは決して綺麗なものではなく、閉ざされた古臭いコミュニティにありがちな、陰鬱としたものであった。
2から導入された大きなシステムがサイコロックである。嘘や隠し事を検知できるという反則級のアイテムである。初の出番であるのどかに対して使用したシーンでは、チュートリアルということもあってあっけなく破られ、のどかの態度が見え透いたものであったこともあって「これはわざわざこんなシステムを導入しなくてもよかったんじゃないか」と思えるものだった。しかし1日目のラスト、千尋に対してサイコロックが発動する演出は衝撃的なものであった。やられたと思った。ネガポジが反転する演出も、不気味さを醸し出しておりよくマッチしている。これ以降「これはサイコロックが来るか!?」と身構えるのも、探偵パートの醍醐味の1つとなった。
新登場した狩魔冥が初登場するのもこの2-2である。率直に言って、いちいち挟まるムチのモーションがテンポが悪く*7、加えて法廷内外で暴行を働きまくっているので、心象はよくなかった。冥への印象が変わるのは2-4と3-5となる。
ストーリーとしては、姉妹入れ替わりや外車の運転席の辺りは早い段階でなんとなく察することができるようになっているが、あやふやなまま進んでいた動機を含めて全ての謎が解決していき、2日目の法廷後半は爽快なものであった。
タイトルである「再会、そして逆転」については、序盤の展開から成歩堂と真宵が再開する物語であることを表しているだけでなく、千尋と真宵が再会する物語でもある。プレイヤーは千尋にも真宵にも会っていたので気付きにくいが、真宵以外の霊媒師がいないと直接会うことはできないとこのタイミングで気付かされる。そんな春美に対して成歩堂は(珍しく)気を遣い、その結果春美はキミ子の本心を十分に理解しないまま話が先に進んでしまう。これが結果として裏目に出てしまうことが分かるのはもっと先の3-5である。

好きなシーン/セリフ

ナルホドーが扉をコワした!まちがいありませんか!

“看護師界のレースクイーンをめざす”って言ってましたぁ。

……背負って生きていくには、重すぎたのです。

 

2-3:逆転サーカス

良くも悪くもプレイヤーに強烈な印象を残したであろう章。
犯人が飛び立ったトリックはあまりに荒唐無稽であり、ゲーム内キャラにさえ「いくらなんでもコレはないでしょ!コレはッ!」とツッコミを入れられる始末。凶器の所持場所についても、さすがにそれはここに到着するまでのどこかでバレるだろうとツッコミたくなる。とはいえゲームとしては、ヒントは提示されているし消去法で選択肢にたどり着けるようにはなっているので、そこまで不親切ではない。むしろトミーを尋問するところの方がはるかに意地が悪い。*8
しかしそんな問題点を帳消しにするほどに話の内容が重い。根っからの悪人がおらず、そのためやるせなさが残る後味となってしまっているが、とはいえ誰もに何かしらの欠点や問題があり、偶然の連鎖で悲劇が起こってしまったストーリーである。被害者の団長は人望が厚かったことが様々な箇所で語られているが、そんな団長の唯一と言える問題が娘への教育を十分に行っていなかったことである。死の概念をはじめとする一般常識*9についてはもちろんだが、猛獣使いという仕事をしておきながら、そこに潜む危険性を認識させられなかったというのは、団長をはじめとする大人たち全員の非であると言える。バットも子供ゆえとはいえ、ライオンと触れ合うことの危険性を認識できておらず、好きな子にちょっかいをかける一環で無謀な賭けをすることになってしまった。アクロも大いに同情の余地があるとはいえ、結局は殺人を計画して犯してしまったわけで、少なからず非があるのは間違いない。判決後の「悪いヒト、いなかったんですよね……?」に対する「どうなんだろう。ボクにはわからないよ。」でよりそのことを思い知らされる。
始めと終わりで受け取り方が最も変わるキャラはやはりトミーであろう。新たな団長となるという決意だけでなく、団長ができなかった娘への教育を代わりに行うのだという決意も感じられ、結果そのことがサーカスが再開するためのきっかけとなった。ミリカの無知が悲劇を起こしたことから、サーカスの面々はずっと目を背け続けていたわけだが、団長まで亡くなった今さすがにこのままでいるわけにはいかないと思ったのだろうか。最後の「笑うなよな!」という発言から、ピエロとしてではなく団長としての決意が見て取れる。
ミリカはある程度の現実を理解し受け入れつつも、その前後を通じて終始団長が亡くなったということには特にコメントがないのが悲しくなってもくるが、自らの教育不足が招いた結果であると言えるので、ある種自業自得なのかもしれない。
閉ざされたコミュニティ内で育てられ、本人に悪意はないが世間知らずとして育ってしまった人物として、ミリカは春美と対照的に描かれている。2-2の法廷で成歩堂が春美に真実を知らせないという選択をした一方で、トミーはミリカに現実を突き付けた。もちろん年齢が倍ほど違うので、成歩堂の選択が間違いだったとは言い難いが、その結果3-5の事件につながってしまったわけなので、やはりどこかで本来されるべきだった教育をするというのは必要なことなのだろう。アクロの犯行における誤算は、ミリカを呼び出すための手紙に対してミリカ自身が内容を理解できなかったことである。無知を憎んでいるミリカに対して、その無知さを見誤って抽象的な手紙を用意してしまったために企みが失敗してしまったわけだが、この辺りも3-5に通じるものがある。
法廷外での初めての冥との会話もあって、御剣関連の話も少しずつ明らかになってきたタイミングでの引きのシーンも印象的であった。御剣が裏で成歩堂を導いていたというのは、この後の2-4のテーマにもつながってくる。2日目の法廷中盤にあったイトノコとのやり取りは、この引きを見た上でもう一度見るようにしたい。検事やワレワレという言葉の意味合いが変わってくる。

好きなシーン/セリフ

おう!本格的なガラスでできたダイヤモンドなんだぜ。

みんなで、生まれ変わるんだよ。
タチミ・サーカスは!

 

2-4:さらば、逆転

このゲームの根底を揺るがす、依頼人が真犯人であり、そのときどうするかというのがテーマの話。
1では依頼人を信じることの大切さが何度も描かれ、それを補強するべく2から登場したサイコロックによって嘘を見破ることまでできるようになった。「この人は嘘を吐いている/いない」ことが分かるなど、推理ものとしてはあまりにも根幹を揺るがすシステムである。しかしそこまでの展開は完全に2-4にとってはミスディレクションであり、無罪だと思い込んでいた依頼人が真犯人であったという事実がよりインパクトのあるものとなっている。
この世界ではどうか分からないが、実際の日本では推定無罪が原則であり、有罪であるという立証ができなければ無罪である。しかしどうもこの世界は"推定有罪"がまかり通っているように見える。しかも被告人の無罪を主張するためには、真犯人を告発するところまでがセットに見える。この時点で既にめちゃくちゃであり、毎回なぜ弁護士サイドがそこまでしないといけないんだという気分になるが、今回は殊更これが重くのしかかる。王都楼を無罪にするのはまだ理解できる*10が、誰かを身代わりとして告発しなければならない。これがただただ邪魔である。今回は華宮が犠牲となり、有罪or無罪が真宵or華宮のトロッコ問題となってしまった。そんな有罪でも無罪でも問題のあった状況から、最終的に有罪でも無罪でも王都楼を追い詰められるところまで持っていけたのは、まさに大逆転であると言える。
2-4の1つの軸は「信頼」である。成歩堂は御剣を信頼し、御剣を成歩堂を信頼している。イトノコも御剣を信頼し、成歩堂はそんなイトノコを信頼していた(裏切られてしまったが)。そして真宵は成歩堂と、何より千尋のことを信頼していた。対する虎狼死家は王都楼への義理はあったものの、王都楼は他人を誰も信頼していなかった。そのことが最後の逆転につながってしまったのであった。そして信頼が揺らいだのは、成歩堂→王都楼もまた同じである。
1のテーマであった「依頼人を信じること」は依頼人が無実であるから成り立っていたものであるが、2-4ではその前提が崩れてしまったので、「真実を明らかにすること」へと昇華させる必要があった。成歩堂をそこへと導いたのは御剣である。1では成歩堂が御剣を導き、検事にとって被告人を有罪にすることだけが全てではないことを思い知らせた。2-4では完全に立場が逆転し、無実の人物を有罪だと主張する成歩堂に対し、依頼人を無罪にすることだけが全てでないということを思い知らせるのであった。1の主人公はもちろん成歩堂であるが、成長や変化が描かれたのは御剣もまた同じである。なんなら1-5まで込みで言うと1は御剣の物語であったと言ってもよい。そしてその御剣が一歩先に立つことで、2は成歩堂、そして冥の物語になるのであった。
冥のこれまでの行動原理はエンディング後に明かされた。父や御剣への重圧、コンプレックスから勝ち続けることを求められていたが、弁護士も検事も勝敗を気にするべきではないということを突き付けられる。「いつも私を置いて先へ歩いて行ってしまう」「ここに並んで立っている」「私は立ち止まるつもりはない」というやり取りの言い回しは、1-5での御剣の葛藤を髣髴とさせる。1の御剣が辿ったのと同じ道を2の冥も辿り、この先も歩んでいくのであろう。

好きなシーン/セリフ

……あの。
その先はッ!その先は、どうなるのでしょうか?
……毎週日曜日、朝8時です。
……ホンキだ!

……"信頼"……?
今まで……考えたこともなかった。
ぼくは……あいつを"信頼"しているのか……?

父はたしかに、天才だったわ!
でも……私はそうじゃない。……そんなことは知っていた。
私は……天才でなければならなかったのよ……

……キミは今日、私に追いついたのだ。
われわれは今、ここに並んで立っている。
……しかし。私は立ち止まるつもりはない。
キミが歩くのをやめるというのならば……
……ここでお別れだな。狩魔冥

 

3-1:思い出の逆転

1は御剣の物語、2は成歩堂と冥の物語であることは既に触れた。そして3は、千尋の物語であると言える。そんな千尋の物語の始まりとして、そして成歩堂の物語という意味でも始まりにふさわしいエピソードである。メタ的なことを言うと、チュートリアルに持ち込むために今度はどんな手段を取ってくるかと思ったら、新米弁護士の頃に遡り過去編を兼ねるという構成のうまさを感じた。
話の内容はチュートリアルもそこそこに、3のプロローグとして非常に重要な意味を持つ。千尋とちなみの因縁、成歩堂とちなみの因縁、千尋成歩堂の出会い、そして千尋と神乃木の導入を一度に描いている。
まだ新米なだけあって、今まで見てきた千尋からは想像も付かないような初々しい姿が見られる。とどめの刺し方も相当危うかった。とは言っても軸になっている考え方は変わらず、ピンチのときでもふてぶてしくすることと、何よりも依頼人を信じることである。依頼人を信じることが成歩堂に受け継がれているのは、弁護士として千尋に教わったからというのもあるだろうが、被告人となった自分を千尋が最後まで信じてくれた経験が影響として大きかったのだろうと思った。
まさかの被告人として登場した成歩堂は、顔も見たくなくなるほど奇行を繰り返し、最後の最後までちなみに盲目的であった救いようのない人物として描かれていた。しかし法廷終了後の成歩堂の発言が実は間違っていなかったことが明かされるのはまた先の話である。

好きなシーン/セリフ

……あ!す、スミマセン!急に、殴りたくなっちゃって。

……すみません、先生。私……ケリをつけなくちゃいけないんです。
……そうね……ずいぶん長い《休憩時間》だったような気がするわ。

平たく言えば"動機はなんだコノヤロー"というコトぢゃの。

あなたも試してみる?運がよければ……助かるかもね。

 

3-2:盗まれた逆転

1-3に次いで2番目に好きな章である。珍しく殺人事件が起こらず、1日であっさり解決したように見えたが、追加で殺人容疑が発生してしまった。これまでも1日目の法廷が終わった後で、なんとか即有罪は回避して凌いだものの、状況はよくなっていないどころかむしろ悪化している、ということはあった。今回より辛いのは、怪人の無罪の立証そのものが、そのあとの殺人容疑を強める証拠になってしまったという点であり、悪い方に逆転してしまったと言える*11。1日目の法廷が思ったよりあっさり終わったので何かあるのだろうかと思ったが、それでも予想し切れない展開に驚いた。
3-2の1つのポイントは一事不再審である。登場したのは、星威岳をこの場で確実に仕留めないといけないという文脈であったのだが、それにとどまらずに天杉のちゃっかり無罪というオチにもつなげたところに感心した。
とはいえ冷静に考えると「それは通らなくないか?」というシーンもいくつかある。好きな回だからこそいろいろと考えてしまったので、野暮とは分かりつつも検討してみる。まず前提として、実際の日本にも同じような原則はあるが、それは一事不再理という名称であるため、似て非なるものだと思った方がよさそうだ。
・天杉の無罪:少なくとも倉院の壺の盗難事件については、一事不再審の原則で無罪になりそうだ。明確に起訴されており、裁判を経て無罪判決となっているので、無罪が確定している。が、怪人としての一連の行為については無罪判決が出ているわけではないので、不問とはならなさそうだ。そもそも殺人こそしていないものの色々と問題行動はしているので、全くの無罪で済むことはなさそうである。
・星威岳を取り逃がす:元々星威岳に対して一事不再審の話が出たわけだが、結構怪しい気がしてならない。元々天杉が殺人容疑で起訴されており、隣の法廷に乱入して星威岳を連れ出しているわけなので、星威岳に対して無罪判決が出るわけではない。怪人としての有罪が確定することで殺人の無罪も確定する、という話しぶりに聞こえたが、飛躍しすぎな気がする。なので法廷の最後に「そのために考え出されたのが、一事不再審を利用したアリバイ作りだった」と言われるが、これは怪しい。少なくとも誰にも乱入されずにすんなり亜内から有罪をもらっていれば、殺人の方はノータッチなのでまだ油断ならない。今回のように殺人容疑でも裁判にかけられ、そこで無罪とならない限りは作戦が成功しないので、想定している状況が中途半端な気がする。
とまあ色々考えたくはなるのだが、敢えて考えたらこうなるというだけなので、評価を下げることでもない。
シリーズを通じて要所で登場する「発想を逆転させる」であるが、この章での逆転はまさに逆転という感じがするのも加点ポイントである。他の章は「言うほど"逆"じゃなくないか?」と思うこともあったが、今回は「天杉が星威岳を目撃した、を逆転させると星威岳が天杉を目撃した、になる」なので、まさに逆転である。

好きなシーン/セリフ

ごくふつうに修理したら"供子"になったのですけど……
そ、そうなのですか。ごくふつうに……

いいのかなあ。トクした、ってコトで……いや。
やっぱり、いくらなんでもそれはまずいよなあ。怪人だもんな、ボク。

 

3-3:逆転のレシピ

1と2ではほぼ扱われなかった恋愛が3のテーマの一つである。3-3は特に恋愛がメインテーマとして扱われている。
2-1で出てきたマコが再登場した。警察を辞めたならまだしも、クビになっていたようなので不当すぎないかと思ったが、1-5を見るに起訴されたというだけで警察・検事の立場はかなり危うくなるのかもしれない。こんなにガバガバ捜査、スピード起訴が蔓延っている世界で迷惑な話である。
これまでレギュラーキャラながら脇役であり続けたイトノコが、この章ではメインキャラとして活躍する。イトノコやマコに関して3-3につながりそうな伏線は2-1や2のエンディングで描かれていたが、忘れた頃の回収だったため虚を突かれた。イトノコが成歩堂や御剣を信頼しているというのは2-4を中心に描かれていたが、マコについても無実であると信じ、刑事にあるまじき勢いで成歩堂に協力してくれる。終盤法廷に乱入するイトノコの姿は、電柱に直撃しなかった世界線の2-4であったのかもしれない。そんな勢いで登場したイトノコであったが、せっかく持ち込んだ証拠品がもはや手遅れであったあたりも愛おしく思えてくる。
一方で芝九蔵とうらみについては信頼関係はない。芝九蔵は鹿羽組を恐れているがゆえにうらみの近くにいるだけである。うらみについては芝九蔵に騙されているわけでもなく、信じ込んでいるわけでもない。心のどこかで分かってはいるが、目を逸らして、想い合っているのだと信じたいだけである。悲しい話ではあるが、強大な力を持つ家に生まれてしまった者の宿命なのかもしれない。
事件としては、偽装した殺人現場を敢えて目撃されるという新しいパターンであった。とはいえとどめの刺し方は1-2以上に弁護士としては問題がある。証拠品に対して意図的に誤った発言をし、それで引き出した発言だけが決め手になっている。有罪が成立するか怪しいどころか、弁護士として何かしらの処分を受けかねないように思える。
……とまあマジレスするとそうなってしまうのだが、最後のつきつけあたりの台詞回しが痛快で心地よかった。特に最後の「この事件のカタをつけるのは、やはりニセモノの証拠こそがふさわしい」がたまらなく好きである。1-2でも触れたように、意趣返し(誤用)による勧善懲悪が味わえる章であると言えよう。
ゴドーについてのキャラの深堀りは大して行われなかったが、赤いシミを見落としたシーンや停電して仮面が点灯するシーンは、ギャグに留まったものかと思いきや後々の伏線となっており、ちょっとしたことも伏線につなげる構成に感心した。
そして探偵パートラストの成歩堂のセリフである「ぼくにはどうしても許せないものが2つある。"毒薬"と"裏切り"……最も卑怯で、最も深く人を傷つける……」も印象的なものである。裏切りも毒薬も、当然3-1で成歩堂が深く傷ついた原因であるが、3全体を通じたテーマにもなっている。1と2は逆に信頼をテーマにやってきただけに、裏切りがあったときの印象が深い。特に3-1から登場しているちなみはあらゆる裏切りを重ねていき、それは最後の最後まで続いていくのだった。
「逆転のレシピ」というタイトルは、1度は断られながらも最後の最後に想いを伝える証拠品となった、イトノコのレシピのことだったのかもしれない。

好きなシーン/セリフ

ロンドンはイギリスだろう!

……信じていたかった……トラさまのコトバ……
おじいさまは……鹿羽権太はいっさい、カンケイない。
"わたしだから"助けてくれた。そう思っていたかった……
そうじゃないことは……はじめから、わかっていたのに。

明日の法廷で……きっと!この借りは、返す……!
カリヨーゼには……ずいぶん、いろいろ借りてしまったからな

ニセモノの裁判、ニセモノの弁護……そしてニセモノの手がかり
すべてがニセモノだった、この事件のカタをつけるのは……
やはり《ニセモノの証拠》こそがふさわしい!

 

3-4:始まりの逆転

1-1、あるいは3-1に付くようなタイトルが最後から2番目の章に付いているところにうまさを感じた。そしてそれ以上に、過去編、それも時系列では最も始めに来るはずの話を敢えて順番を入れ替えているところに構成のうまさを感じた。
3-4と3-1を敢えて入れ替えた上に間に2章挟むことによって、以下のように様々な効果がある。
 ・先にゴドーを登場させた上で、名前だけ出てきた神乃木との関わりに気付かせる
 ・ちなみが単に悪事を重ねているキャラという描写にとどまらず、こんな過去まであったのかという驚きが増幅する
 ・千尋とちなみの因縁だけ先にチラ付かせておいて、後から回収する
 ・同様に、千尋の初めての法廷が何か知らんがすごそうだったことだけ先にチラ付かせておいて、後から回収する
 ・御剣の出番を終盤に固める
 ・よく見ると病院にいる成歩堂の理由が直後に分かる(3-1から3-5まで空いてしまうとそんなことを忘れてしまう可能性が高い)
 ・同様に地名周りの情報を忘れない
このように、ひたすら唸り続ける章であった。
過去編というくくりで考えると、千尋と神乃木、そしてちなみの過去編ということになるが、御剣の過去編でもある。1-5と3-4のどちらを先にプレイするかは人によるだろうが、私は1-5から先にプレイしたため、「曰くつきの衣装」というのはそういうことだったのかと、これまた唸ることになった。

好きなシーン/セリフ

……オレ……バカだから。ヤクソク、守れそうもない……
だから……これ、使った。
オレ……無罪になったら……自信がない……
チナミを……もう、一度……
殺してしまう……かも……

 

3-5:華麗なる逆転

逆転裁判のここがすごい!
1→オウムが証言する
2→殺し屋がリモート出廷して証言する
3→死者が証言する

123の集大成。1はともかく、2と3にはこの3-5のために、いくつもの伏線が散りばめられている。
3-4と同じ曰くつきの舞台を訪れた成歩堂一行は、早い段階であやめに遭遇する。2で双子入れ替わりトリックや依頼人が有罪のパターンを経験しており、霊媒の存在も相まって、探偵パートはどこまでのことが起こりうるのか疑心暗鬼であった。そんな中で成歩堂がまさかの退場となったものの、どうなるかと思いきや御剣に操作キャラが切り替わったのは、最終章にふさわしいファンサービスである。御剣視点の情報や、何だかんだイジられがちな御剣を見るのは微笑ましい。
およそしめやかとは程遠い空気で始まった1日目の法廷は、2-4の最後の法廷後とED後に語られた内容に対する1つの回答である。法廷の冒頭、鞭の音とともに冥が登場するシーンは、瞬間最大風速で言うと123を通じて一番熱くなった、好きなシーンである。
法廷は勝ち負けではない。弁護士と検事が法廷でぶつかることで、真実に近づくことができる。そのために弁護士と検事はお互いに信頼し、互いに全力を尽くすことが求められる。これが2-4における大きなテーマであった。「君は最高のパートナーだ」と言ったように、御剣は冥をその相手として信頼できるとして呼び出した。冥にとっては不本意な利用のされ方かもしれなかったが、御剣に勝つために全力でぶつかり続けた。その結果、矢張が隠し持っていたいくつかの証拠品を引きずり出し、真実に近づくことができた。
冥は成歩堂を敵対視していたというよりは、御剣を越えたかったのだと2のED後に明かされた。ともに検事であるため、成歩堂という物差しで力を量ろうとしていたわけだが、御剣が弁護人となることで直接対決を実現することができた。対する御剣も幼少期に弁護士を目指していたということもあり、その小さな夢が一時ではあるが実現した。この法廷は、御剣と冥、そしてここまでプレイしてきたプレイヤーへのご褒美のような、エキシビションマッチであったと言えるだろう。
弁護人の立場となった御剣は、被告人を信じることと、とにかく諦めずに立証しようとすることを意識していた。それはいつも成歩堂がしていることであり、弁護士のあり方を成歩堂が御剣に示し続けた結果であると言える。さらにその姿は、千尋から成歩堂が学んだものであることが、2日目の法廷で確認できる。
探偵パート2日目には冥に加わり、まさに全員集合での捜査となる。捜査を進めるうちに、3-1や3-4だけでなくDL6号事件までもが関与しており、全てが物語としてつながっていることが判明する。舞子の正体は途中でなんとなく勘付けるようにもなっているが、事件の全容は分かりそうで分からない。加えて終盤にはキミ子の陰謀も明らかになり、2-2で意味深な終わり方をしつつもその後登場しなかった伏線がここにきて回収される。何も知らない無邪気な春美が利用されていたのは心が痛くなる。キミ子は家元の座を狙うために、春美はおろか死んだちなみ、もっと言うとちなみの死までも利用したわけだが、ちなみはそんなキミ子の心はすでに壊れており、哀れな女だと言う。散々作中で非道な行いをしてきたちなみをしてそこまで言わしめるほどに、キミ子の生い立ちは壮絶なものであった。それはちなみも同様であり、これまで利用されてきたにもかかわらず、あやめはちなみのことをかわいそうだと言う。家元の座を巡っての暗殺などは頻繁に行われていたと語られることからも分かるように、極悪人として描かれたキミ子もちなみも、古い風習と権力争いに巻き込まれた被害者でもあった。そう考えると少なからず同情の念も沸いてくる。
そんなちなみをどのように罰するのか。死者を罰することはできない、死者の世界には手が届かない、とちなみは言う。一方で自身も千尋も既に死んでいることから、千尋に復讐することも困難かと思われた。そんな状況での唯一の復讐の手段が、残された唯一の肉親である真宵を殺害すること。「肉体は消えても、その魂は、プライドは永遠に残る。」ちなみは自身が復讐に用いようとしたその方法で、不可能と思われた罰を逆に食らってしまった。3-4の時から始まっていた千尋とちなみの因縁に決着を付ける、鮮やかな逆転劇であった。
霊媒の手を借りて、千尋は自らの手で、このようにしてちなみにとどめを刺すことができた。1-2と同様に、千尋自身がその場に居合わせ、ちなみに勝利宣告できたというのが、千尋が報われたような気がしてカタルシスが得られた。「あなたは私には勝てないの。一生かかっても、死んでも勝てやしない。」と言い放つシーンはこの上なく爽快であった。親子かめはめ波ならぬ師弟意義ありも、その直前に1の追及が流れるシーンも当然好きなシーンであるが、真実は告げるとともに満を持して千尋が登場するシーンも同じくらい好きなシーンである。
千尋自身の過去には決着が付き、あとは舞子殺害の件が残った法廷後半は、成歩堂一人で臨むことになる。ここではゴドーに関する伏線が回収され、赤色が見えないことと、仮面が発光することが立証に効いてくる。徐々に追い詰められていくゴドーは、被告人の有罪を立証することではなく、自身の無罪を主張することでもなく、成歩堂が弁護士としてどの程度の力量であるのかを量っているように見える。3-2でも3-3でも、成歩堂のとどめの刺し方を事前にシャットアウトできそうであったものの、敢えて結末を見届けているように見えた。師弟意義ありによって成歩堂の中に千尋を見出したゴドーは、成歩堂が弁護士として一人前になっていること、そして千尋の教えを受け継いでいることを確認できた。ゴドーの怒りは成歩堂への八つ当たりであったことを認め、ゴドーにとっても過去に決着を付けることができた。一見ギャグ台詞であるが、3-2でのゴドー初登場のシーンで、「人は誰でも心に仮面をつけている」という発言がある。野暮な読みかもしれないが、「あなたは今も傷を隠しているのです。そのマスクの下に!」というのは、単に顔面を負傷しているというだけでなく、千尋を失った悲しみでずっと傷を負っているのだという指摘だったのかもしれない。それを千尋と二人がかりで指摘されたことで、ゴドーは自分の感情にようやく素直になれたのかもしれない。
3-4での台詞もあって、最後はゴドーが涙を流して、全てが終わったのだと言って締められるのではないかと予想していた。しかし実際にはそれにとどまらず、仮面の下から血を流すことで成歩堂の指摘が正しかったことを示した上で、赤が見えないという設定も合わせてこれはきっと涙なのだと言うのは、予想を上回る洒落た展開であった。
最後の最後に語られたあやめと成歩堂の関係も、もうひと逆転といったところであったが、二人とも直接的な言葉を使うことなく想いを伝え合っていたのが、これまたお洒落だと思った。
全てのキャラが終結し、全ての物語がつながり、終わりを迎えた。123を締めくくる、タイトル通りの華麗な物語であった。

好きなシーン/セリフ

検事のシゴトは……人を疑うことです。しかし……。今日の私は、弁護士だ。
弁護士のシゴトは人を信じぬくこと……私の友人は、そう言っていました。
私に、そのシゴトができるかどうか……被告席で、シッカリ見ていただきたい。

"立証できるか?"……?
そんなことは、問題ではない
"立証する"
……それしかないではないか
それが、あのオトコ……
……成歩堂龍一のやり方なのだから!


"立証できるか?"……?
そんなことは、問題じゃない
"立証する"
……ぼくには、それしかない
……それが、ぼくが学んだ《弁護士》のルールなんだ!

プライドなんて、生きてゆくにはジャマなだけのシロモノよ。
でも……いいシゴトをするためには、なくてはならない。

どうだったんだろうな……?自分でも、よくわからねえんだ。

あの一瞬、オレのココロに……本当は、何があった?

今となっては……もう、わからねえのさ!

 

好きなBGM

1:追及
3:真実は告げる
1:トノサマンのテーマ
2:真実は告げる
3:開廷
2:追及
3:法廷休憩室
3:吐麗美
3:追及


関連作品をプレイする予定は今のところないが、逆転検事12はそのうちやりたいかもしれない。

 

成歩堂とかいうノンデリサイコ匂わせ違法調査マン

 

*1:この世界ではどうか分からないが、実際の日本では自供のみでは有罪にならないのが原則である。しかも脅迫された状況下での自供などもってのほかである。

*2:意趣返し(誤用)に対応するちょうどいい日本語がなくて不便である。何か代わりの言葉があったら教えてほしい。

*3:御剣信の証言について、犯人が生倉であると本当に勘違いしていたのか、あるいは息子が犯人であると思っていたが嘘の証言をしたのか、いずれなのかは結局明らかにはなっていない。しかしどう転んでも、息子が犯人であると証言することはなかっただろう。

*4:終盤に千尋の声が聞こえるシーンはあったが、成歩堂が勝手に受信していただけである。

*5:真宵と千尋、茜と巴はそれぞれ対照的であるのだが、加えて真宵と茜、千尋と巴も対照的である

*6:実際の日本にはこのような法律はおそらく存在しない。違う名前で近しいことを言っている部分はあるかもしれない。ついでに言うと法廷侮辱罪も現実の日本には存在しない。

*7:1に比べてテンポが悪化したというのは2,3全体を通じて感じた。2-1の諸平野のモーションから感じ、3の最後まで払拭されなかった。

*8:とはいえ、とりあえず全ゆさぶりが攻略法として安定であるため、難易度を上げるためにはフラグ立て+再度ゆさぶりという形にするしかないのは分かるのだが。

*9:「星になった」と一括りにされたため、バットが今どういう状態であるのか、法廷後もまだ分かっていなかったように見える

*10:無罪と無実は異なる。王都楼は無実ではないが、有罪であるという証拠が足りないと判断されれば無罪である。尤も、それは推定無罪が前提である。

*11:1-5の2日目の法廷が近い構成であると言える